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「お帰りなさい、田中さん」
「ただいま、めぐみちゃん。どこか行くの?」
日曜日のお昼前。
二か月が過ぎると、田中さんと私の間に会話が産まれるようになった。
簡易的で短いやり取りだけれども、着実に、少しずつ増えてきた。
「デートなんです。彼氏と」
荷物の少ないハンドバックを意味もなく見せて、「行ってきます」と会釈する――――いつもみたいに。
「そうなんだ」
いいね。田中さんはグッ、と親指を立てる。
「めぐみちゃん、初彼でしょう」
「えっ、何でわかるんですか!」
「あはは、顔赤くしてかわいいなぁ。そりゃあ分かるよ」
それが経験値というものなのかな。田中さんが中学を卒業したのは7年も前の話。
青春時代を乗り越えた田中さんは、それなりに恋愛経験も豊富なんだろうか。そうか、そういうものかもしれない。
恥ずかしくて唇を噛んで拗ねる私に、田中さんは一言だけ、アドバイスをくれる。
後悔もあるけれど、どの恋愛にも意味があるよ。と。
それ以上を彼女は言わないけれど、それはきっと恋愛に限ったことではないんだと思う。
最近分かってきたこと。田中さんは普通の女子大生で、だけど、少し変な人だ。
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