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22歳の私は、夜勤アルバイトのハードワーカーだ。
「田中さん。俺、A店様子見に行ってくるからあとよろしくー。ラストには戻るよ…たぶん」
「はーい。お土産お願いシャス」
緩い店長。ゆるすぎる店長を持ったお店の経営が心配過ぎて、なんやかんやと世話を焼いてしまう私。
「A店で話し込んで時間忘れないでくださいね。田中が一人で店を閉めることになるんで」
「大丈夫!田中さんならできるよ!」
「できるよ!じゃないですよ!」
「流石、藤村が見込んだ女!」
緩いだけじゃない。空気も読めないし、デリカシーもない。
別れたばかりの彼氏の名前に、私は少しだけどきりとする。
「見込まれてなんかないですよ、むしろ馬鹿にされてますよ。ほら、早くしないとラストに帰って来れなくなります」
無理矢理店長を玄関から押し出して、先を急がせた。
「行ってらっしゃい、気を付けて」
「藤村になんか伝える?」
「安らかに息絶えてくださいとお伝えください」
浮気は文化だと豪語する男を一瞬でも彼氏にした私が間違いだった。
大事なことだから繰り返すけれど、そういう男は息絶えて日本から消え去ればいいと思う。
それでもまぁ、私も女だから。
好きだった男の子どもを妊娠した時。
産んでもいいかな、なんて思った瞬間もあった。
私は学生で、これだけ働いても自分が生活をすることで精いっぱいなのに子どもを育てるなんて夢のまた夢だけど。
後悔もいろいろあるけれど、いろいろ経験した方が良い。
いつだったか、田中さんが言っていたあの意味が分かる。
その内解るよ。
そう言った理由が今ならわかる。
10年前、私の家の隣に越してきた女子大生。
証拠はないけど、私には言い切れる。
三か月間、私とあいさつを交わし続けた夜勤アルバイターの女子大生【田中さん】は私【田中めぐみ】だったんだ。
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