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「……価値ってのは他人が認めてこそ生まれるもんだろうが。てめえが御託並べようが知ったこっちゃねえが、少なくとも殺すことで生まれる価値なんてあるわけがねえ」
「おや。キミにそのような見識があるとは。しかしキミの言う通りだ。価値とは人に認められて初めて形となるもの。だからこそ、僕が認める。殺すことによる影響というものを。そうすればそこにだって価値は生まれるんだよ」
「あり得ねえ」
「それはキミが決めることではない。それを客観視した人間が決めることだ」
男は訝しんで眉根を潜めた。
「……おめえ、人間か」
「失礼な。ちょいとしがない独り身の人間さ、列記としたね。何なら住民票でも持ってきてあげようか」
「いらねえ」
「いらないと言えば、そうだ。クッキーを持ってきたんだ。良かったら奥さんや娘さんとどうぞ」
クッキーは透明な袋に四枚収められていた。
男はそれを見て、数秒固まってから前触れも兆すことなく若者の胸倉をつかんだ。
「舐めた真似してるとマジでぶっ殺すぞ」
「あはは、嫌だなあ。舐めてなんかいないよ。汚い」
「死ね」
拳を線の細い頬へ叩きこんだはずが、まるで幻のように若者の手応えが掴んでいた左手から消えていた。
きょろきょろと慌てて見渡すと、ほんの数メートル離れたところで、若者は事も無げに笑って男の方を見ていた。
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