命の価値

3/7
前へ
/7ページ
次へ
「……価値ってのは他人が認めてこそ生まれるもんだろうが。てめえが御託並べようが知ったこっちゃねえが、少なくとも殺すことで生まれる価値なんてあるわけがねえ」 「おや。キミにそのような見識があるとは。しかしキミの言う通りだ。価値とは人に認められて初めて形となるもの。だからこそ、僕が認める。殺すことによる影響というものを。そうすればそこにだって価値は生まれるんだよ」 「あり得ねえ」 「それはキミが決めることではない。それを客観視した人間が決めることだ」  男は訝しんで眉根を潜めた。 「……おめえ、人間か」 「失礼な。ちょいとしがない独り身の人間さ、列記としたね。何なら住民票でも持ってきてあげようか」 「いらねえ」 「いらないと言えば、そうだ。クッキーを持ってきたんだ。良かったら奥さんや娘さんとどうぞ」  クッキーは透明な袋に四枚収められていた。  男はそれを見て、数秒固まってから前触れも兆すことなく若者の胸倉をつかんだ。 「舐めた真似してるとマジでぶっ殺すぞ」 「あはは、嫌だなあ。舐めてなんかいないよ。汚い」 「死ね」  拳を線の細い頬へ叩きこんだはずが、まるで幻のように若者の手応えが掴んでいた左手から消えていた。  きょろきょろと慌てて見渡すと、ほんの数メートル離れたところで、若者は事も無げに笑って男の方を見ていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加