命の価値

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「おめえ、なんなんだ」 「だから言っただろう。僕はしがない独り暮らしの若者。今日からキミのお隣さんになる人間だ」 「……三つ目は」 「お、ようやく興味が出たかい」 「聞けば大人しく帰るんだろ。そのクッキー持って」 「クッキーはどうぞ差し上げるけど、帰ることは約束しよう」  男は拳を握り、堪えを断ち切るように再び解いてから震える手を伸ばしてクッキーをうっかり砕かぬよう受け取った。 「ではでは、人間が価値を得るための三つ目の条件とは……条件とは……」 「なんだ。さっさと言え」 「忘れちゃった、えへ」  男が扉を閉めようとすると、咄嗟に若者の手が門扉と壁との隙間に入りこんでがっしりとそれを阻止した。 「おっと、ちょっと待った」 「忘れたんだろ。帰れ。俺は眠いんだ」 「そうか。なら眠ればいいさ。けど、最後にこれだけは言わせてくれ」  隙間から何とか垣間見えるその人形のような黒目を目視して言葉を待った。 「奥さんと娘さんによろしく」  男は不気味なほど白くて細長い指をへし折るつもりで扉を閉めたが、やはり煙のように見る姿も失せていた。
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