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眠りから目が覚めると、正面には漆喰の天井がすぐ見えた。羽毛布団を取り払ってから床に足を着け、気分が落ち着かないせいもあってか、隣ですやすやと眠る子供を起こしてから僅か三〇分ほどで朝食と支度を済ませ車に乗り込んだ。
運転しながらふと見ると、後部座席に座る子供はひとつの袋を大事そうに抱えていた。
男は訊ねた。そのクッキー、どうしたんだ、と。
子供はあどけない顔に浮かんでいた寂しさを消して、呆気からんと言った。
――お父さんが用意したんでしょ? このチョコクッキー。
それっきり男は黙って車を走らせてこれで二度目になる墓地まで自分たちの身体を運んだ。
ひとつの墓石には、二つの名前が刻まれていた。
幸子と雪子。
雪子はユキコと読み、妻の名から由来していた。サチコという漢字は、ユキコとも読めるのだった。
もう三年も前のことだ。二人が交通事故で他界したのは。幸あるようにと名付けられたはずが、二人はあっという間に逝ってしまった。気性が荒かった男の運転によって。
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