命の価値

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 そのくせ、運転席に座っていた男はエアバッグに守られ、息子はチャイルドシートに座っていたことでどうにか命を落とさずに済んだ。  それからだ、男がずいぶんと落ち着いた性を振る舞うようになったのは。そのため今朝方見た夢の中の自分を思い返すと、すぐにでもかつての自我が蘇ってしまう気がして恐ろしかった。  息子と一緒に墓石を丁寧に洗ってから、二人で手を合わせようとすると、息子がその袋を供えようとしたのを男は呼び止めた。  そのクッキーは、確か先日引っ越してきた、男たちの事情を何も知らぬ青年から譲り受けた品だったのを思い出した。もう一週間は経っているだろうか。恐らく痛んでしまっていて、供え物としては適さない。  少しばかり息子はぐずったが、男が別に用意していた一輪の花を見せてからどうにか言葉を交えると、ようやく納得してくれた。
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