命の価値

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 線香に火を灯し――  ゆらゆらと宙へ浮かび上がる煙に向かって男は長々と黙祷した。  息子の方は段々と飽きっぽくなった様子でそれが終わるのを待っていた。  ゆっくりと目を開いて、それでも合掌する手はなかなか離れない。まるでたゆたう線香の煙がそんな二人を笑うように一度大きく揺れた。  ――いいのよ、もう。  男はハッとして、頭をあげた。だが、確かに見えた気がした気配は、薄雲が広がる灰色の空の下、どこにも見当たらない。  そんなこと、あるはずがなかった。  男は馬鹿らしくなって、以前のような投げやりな微笑みを刻んでから、傍らで所在なさげにいた息子に声をかけた。  車が止めてある駐車場へ向かう道すがら、ふとクッキーの袋を懐から取り出してみて、男は立ち止まった。  息子が不思議そうに見つめ、どうしたのかと問う中で、男はふっと笑った。 「……うまかったか」  返事は聞こえなかった。  ただ、心の中にぽつりと浮かび上がった温もりが、そのときスッと胸をいっぱいに満たした心地がして、男は熱くなった目頭に、どうしようもなくなって触れた。  
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