我が家の愛犬

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我が家の愛犬

 一年前から犬を飼っている。  知り合いの知り合いの知り合いの…つまりは、どこからか縁があってもらわれてきた奴だ。  見た目からして雑種。日本犬の要素が強いけれど、和洋折衷で色々と混ざっているらしく、原産ははっきりしない。ただ、大きさからして、小型犬の血が強いのではということだけがはっきりしていた。  そういう小さな犬なので、散歩の時によその犬に遭遇すると、そそくさと俺の後ろに隠れてしまう。  相手が吠えたり寄って来たりしなくても、毎回逃げて隠れるのを見て、体が小さいから、たとえ中型犬程度でも他の犬が怖いのだろうと思っていた。  そんなある日。  ハガキを出すためにいつもとちょっとだけ変えた散歩のコース。そこを歩いている時に、俺にとっては事件級のできごとは起こった。  普段、そこを通らないのには理由があった。その近所にはお屋敷と呼べるレベルの豪邸があって、その広い広い庭には何匹もの大型犬が放し飼いにされている。 そいつらが、散歩途中の犬を見かけるとやたらめったら吠えるのだ。  吠えるだけだとしても、ウチの臆病ちゃんは怖がるだろう。そう思い、いつもはまったくの逆方向を散歩している。でもこの日は、辻を一つ挟んだ近くを歩いていた。  その辻向こうに大きな犬の姿が見えた。  ドーベルマンとシェパードが一匹ずつ…お屋敷の犬だ! 散歩途中にリードを振り切ったのか? それともうっかり門が開いていてそこから逃げだしたのか?  どちらにしても、大型犬が外をうろついていることに変わりはない。しかも二匹はこちらを見ている。  咄嗟にウチの犬を抱き上げ、俺は逆方向に走り出した。でも、この時は動転していて気づかなかったが、対処方法としては間違いだ。  犬の習性で、走るものがいれば当然追ってくる。背を向けていれば飛びかかろうとする。  傍から見れば、俺が絶体絶命だった。でもこの時の俺は、違う理由で絶望を味わっていた。  庇うために抱えていたウチの犬が、突如俺の手から飛び降りたのだ。  多分、迫り来る大型犬の存在にパニックを起こしたのだろう。それは仕方がないが、わざわざ逃げて来た方に飛び出すなんて、慌てるにも程がある。  そんなおバカちゃんでも可愛い愛犬。何とか助けてやらないと。  そう思い、振り返った俺の目に信じがたい光景が映った。
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