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………………  このアパートに越してきたのは三日前のことだ。  103号室。1Rの狭い物件だ。  引っ越してきた初日、私はアパートの他の住人に挨拶回りをした。このアパートは全部で8部屋しかない。挨拶は早々と済んでゆき、残るは私の部屋の両隣となった。  「103号室に引っ越してきた君嶋です。よろしくお願いします」  102号室に住んでいるのは大学生らしい若者。「粗品ですが」と挨拶品を手渡す。すると、若者は顔をしかめながらそれを受け取り、「今井です。よろしくお願いします」と言った。  空き部屋だった隣に住人ができるというのは好ましいことではないのだろう。顔をしかめたくなるのも分かるが、少し露骨ではないか。  少しの沈黙が流れる。  すると、若者ははっとしたように「いや隣に人が来るのが嫌ってわけじゃなくてですね」と弁解をする。  「あの、ただ103号室って言ってたんでちょっと。すみません」  どういうことだろうか。若者に問いただそうとするが、早々と扉を閉められてしまった。あの部屋が事故物件であるということは聞いていないが……。  これは仲介業者に確認した方がいいのだろうか。  「…………」  少し悩んだが、早めに訊いておいたほうがいいだろう。後回しにしたら面倒だと思って結局放置してしまいそうだ。  プルルルルルルルルル、と。コール音が続く。十秒ほど待つと、ガチャリという音とともに、  「はい、こちら賃貸物件紹介のAです」  と、気のよさそうな声。部屋を借りる時に対応してもらった人と同じだ。たしか、名前は……。  「金原さん、私、Bハイムの103号室を借りさせていただいた君嶋と申しますが」  「あっ、君嶋様、どうかいたしましたか?」  どうやら金原も私のことを覚えていたようだ。  「あのですね、今ちょうどこっちへの引っ越しが終わりまして。挨拶回りしてたんですよ。それで、その時104号室に越してきたことに変な反応されちゃいまして」  「…………」  電話の向こうの金原は押し黙っている。私は続けて問うことにした。  「単刀直入に訊きますけど、この部屋事故物件だったりします?」  電話の向こうからは「あー……」という細い声が聞こえる。少し待って金原が言ったのは、  「申し訳ございません」  という謝罪だった。
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