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 金原が言うには103号室は特に事故物件というわけではないらしい。が、しかし。その隣に住んでいる人物が厄介だと言うのだ。隣と言っても、先ほど訪ねた大学生ではなくその反対側、104号室の住人である。  ある日突然、私より前に住んでいた103号室の住人から管理会社へ連絡があったらしい。  「隣の住人が壁を叩いてきて困っている」  と。  その住人曰く、特に物音をたてているわけではないのに壁を強く叩いてくるらしい。それも夜、頻繁に。  直接文句を言う勇気も無かったので管理会社へ連絡をして、注意をしてもらったようだ。しかし、その後も音は止むことは無く結局その住人は部屋を出ていったそうだ。  「申し訳ございません。説明不足で……」  金原は申し訳なさそうに言うが、何が説明不足だ。意図的に言わなかったくせに。  …………隣人か。たしかに面倒くさそうだ。しかし、引っ越し費用でもう貯金も少ない。すぐに出ていくというわけにもいかない。  「………………」  少し考え、  「……はあ。いいですよ。何とかしますんで」  103号室に住むことを了承した。  「本当に申し訳ございません。ではまた、ございましたらお電話ください」  そう言うと金原はそそくさと通話を切ってしまった。  まったく、こんなことなら違うアパートを選んだのに……。  とは言え、しょうがないことだ。……104号室の住人にも会っておかなければ。  ピンポーン、と。インターホンが軽い電子音を鳴らす。出てこない。もう一度、ピンポーン、と。しかし、いくら待っても104号室の住人――――表札によると鈴木――――は出てくる様子がない。  覗き穴の様子を見ると部屋の電気はついているのに、だ。  もう一度インターホンを押してはみるが、案の定出てはこない。全く、何を考えているんだ。  仲介会社との一件もあり、苛ついていた私は舌打ちをすると部屋へ戻った。  時刻は18時。それからは買ってあったコンビニ弁当を食し、少ない荷物を解いた。  と、その時。  どんっ。  と、壁から大きな音。104号室の方の壁だ。  これがそうか。  電話で壁ドンについて聞いた時から考えていたことを実行に移すことにした。  私は壁の方に寄ると、思いっきり叩き返した。
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