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 しーん、と沈黙が流れる。  意外な反撃に驚いたのだろうか。だとしたら効果はてきめんだったのだろう。これでこのまま何もなければいいのだ――――  どんっどんどんどんどんどんっ  ――――が…………。  絶句した。  どんどんっどんっどんどんどんっ  「は、はあ? なんだこいつ……」  どんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんどんっ  思えば、あの時叩き返したのが失敗だったのだろう。  あれから夜になると壁が叩かれないことはない。  どんどんどんどん、と。鳴り止まない壁の音。初日の次の日、朝早く104号室を訪ねたが、やはり出てくるわけもなく。夜になると壁を叩かれた。  管理会社へ電話をかけようかとも思ったが、何とかすると言った手前それはためらわれた。  しかし、自分で何かできるわけでもなく。  どんどんどんどんっどんっどんどんっどんっ  壁を叩く音が止むことは無かった。  そして、何もできないまま3日が経ち、  「あー………………、…………」  今に至る。  できるだけ部屋にいないようにしているが、夜はそういうわけにもいかない。この近くに知り合いがいるわけでもなく、宿泊施設に泊まる貯金もない。  音は鳴り続け、私はノイローゼ寸前だった。  寝てしまえば音は聞こえないと思ったが、当然寝れるはずがない。  今日もまた寝ることができないまま、音を聞き続け朝を迎えた。  会社へ行かなければ。寝ることができていない為、ミスを連発し上司に怒鳴られてばかりだが、それすらも上の空で一日を終える。  帰路、部屋のことを、壁のことを考えると足取りが重くなる。  104号室の住人はもう壁を叩いているのだろうか。これからどうすればいいのだろうか。眠い。寝たい。寝れるのだろうか、眠れるのだろうか。どうすればいいのだろうか。  朦朧とした意識のまま部屋の前までたどり着いた。  と、その時。ガチャリ、と。扉の開く音。鈍感になっている意識をその音の方向へ向けるとそれは104号室の扉だった。  「!!!」  手に持っている鞄を取り落としながらもそちらへ歩を進める。中から出てきたのはボサボサの髪の男だった。薄汚れた服を着てよろよろとした足取りで部屋から出てきた。  「お前ぇ!!!」  と、私は男に掴みかかっていた。
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