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彼女はどこへ向かってるのだろうか。
……いや、分かる。
駅だ。
毎朝、僕も通っている。
変わらない道。変わらない時間の変わらない風景。
私服の僕たちだけが、まるで違う。
彼女はリュックを背負っている。
僕は丸腰で、財布だけをポケットに入れている。
彼女はどこに行くのだろうか。
僕は、どこまで、彼女の近くにいれるのだろうか。
僕らは、歩きながら、ずっと無言だった。
彼女の背中はとても小さくて、リュックが大きく見えた。
でも、どこに向かっているのか、なんて、それすらも聞けない。
彼女が、隣の部屋に引っ越してこなければ、僕はこうも彼女に意識を囚われることは無かったのだろう。
壁一枚の隔たりと言う距離で、僕の世界は、君を見つめることしか出来なくなった。
同時に壁一枚で、君と言う存在にそれ以上、踏み込むことが出来なかった。
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