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「ちーよっ!」
先生のお風呂の事を考えていて、茜にまた呆れた顔を向けられた。
「あはは、ごめん……なんていうかさ、先生って私のご飯をすっごく美味しそうに食べてくれるんだよね。バカ正直にこんなに美味しいご飯を放っておけない。とか言っちゃうし。」
そう…
先生はいつだって正直なんだ。
美味しいものは美味しい。
綺麗なものは綺麗。
好きなものは好き。
直球の褒め言葉が、私の今の夢に繋がっている。
先生が私に夢を目指す勇気をくれた。
「それに!先生を好きにならなければ、茜にも会えなかったしね。」
そんな私に、茜がため息を吐いた所で授業の始まる予鈴がなった。
「せんせー。そろそろお風呂、入りませんか?」
「…いや、この定義ではAに辿り着けない……かと言って別の道では…」
あー、ダメだ。
聞こえてないぞ。
もうすぐ閉門だしなぁー。
そろそろお風呂に入ってもらわないと、確か明日はインタビューが夕方から入ってたはず…
数々の本の下敷きになっているカレンダーには、しっかりと明日の日にちに「17:00~ 理系出版 本田 会う」と記してある。
どうにかして風呂に入れなければいけない。
「せんせー…明日は大事な日なので、帰りましょー?」
「…はっ!ここで素数に対しての働きをあそこに繋げれば!」
んー、こういう時は仕方がない。
最終手段だけど、こうするしかない。
スマホで黒板と研究室全体を撮影して、夢中な先生の後ろから隠れている部分もしっかりと撮っておく。
これをした後数日は口をきいてくれないけれど、これ以上待っていては朝日が昇ってしまう。
「えいっ!!」
「そうなると、ここから…いや、待てよ…」
「…おりゃ!」
「…素数定理ではここからの直線が…いやいや、違うぞ。」
「とぉーーーーーーーっ!?」
「ちが……?!」
先生は徐々に消えていく白い文字に気付いたのか、全ての人間の動きを停止させてしまっているようだった。
「先生、今日は帰りましょう?これはすべて夢なので、一先ず目を覚ますために家に帰りましょう。」
「………」
コトッとチョークを置いて、ブツブツと呪文のような数式を呟きながら研究室を後にする先生。
先生の荷物と、研究室全体の写真を撮ってからトボトボと歩く大きな猫背を追いかけた。
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