第1章

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いつも気付くとあの子は帰ってしまう。 帰るな。とは言っていないし、ここは僕の家だから、あの子が自分の自宅に帰るのは当然の事だが、それではいつまでたってもこの関係が変わらないではないか。 縮まらない距離に歯痒さを感じるようになったのはいつか。 世の中から、変人の扱いを受ける僕に甲斐甲斐しく世話を焼く女は彼女くらいのもんだ。 始めて飛鳥くんに連れられて出会った彼女の笑顔に、答えの出ない迷路に入った気がした。 それまで一つの答えを探す事が生活の一部だったのに、一つにならない答え。 だが、僕が彼女に魅了されるのは、僕にとっての数学だからだと思うことにした。 惚けている彼女の後ろ姿に、好きだと直球を向ける勇気のない僕は、彼女には難しい問題を出す。 「千代くん、問題だ。」 「…え、へっ?」 「“もしも数学が美しくなければ、おそらく数学は生まれてこなかっただろう。人類の最大の天才たちをこの難解な学問に惹きつけるのに美の他にどんな力があり得ようか。”」 「え…数学?美し…え?」 「誰の言葉で、君にとってどんな意味の言葉と取れたか。数日考えてレポートを作ってきなさい。いつでも構わないよ。」 ポカーンと、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔で私を見つめる彼女。 可愛らしいが、彼女の答え合わせはまたの機会にしよう。 しっかりと考えて、僕へのレポートを作ってもらわなくてはいけないからね。 クスリと笑って、ヒゲを剃りに戻る僕。 それから、僕の背中を眺める彼女。 若干スローペースではあるが、彼女との関係に一つの答えがでますように。 君 = 数学 ,fin.
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