第1章

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◇ 探すまでもなく、件の女は長屋の表にいた。 女と言うよりは少女といったほうが正しい。小柄な体躯で少ない荷をせっせと中に運び入れていた。 歳の頃は15,6といったところか。 ふっくらとした頬に大きな目があどけない、まだまだ子供の様である。 しかしながら荷物を片付ける仕草は実にきびきびとしていて小気味よい。弟子が垂涎の眼差しを注ぐのも納得の、実に健康的で目にも美味なる娘である。 おそらく弟子以外の魍魎どもも、同じような目でこの滅多にない馳走を物陰から窺っているはずだ。 ---------だがこの娘、実に珍妙な姿をしている。 年頃の娘だというのに女の命ともいうべき黒髪を無様なほど短く切り取り、額には手ぬぐいを巻いている。 だが何より着ているものが奇妙なのだ。 襦袢のようななまめかしい朱赤色の上衣を着ているが、洋装にしては袖が短く釦も襟すらもついていない簡素で不格好なもので、おまけに丈があまりにも短すぎるものだから娘の柔らかそうな腹は剥き出しになり臍まで丸見えだ。 藍染のぴったりとした股引のような形の下履きなどは膝のあたりが切り裂かれたように横に大きく破れていて、着衣であるのにすっかり脚が露出してしまっている。 若い娘がこんな丈足らずや破れ雑巾のような襤褸を着て肌を晒しているなど、なんとも破廉恥なことだ。場末の女郎とてこんないかがわしい恰好などしないだろう。 いやしかし。 もしやこれが今の人の世の女郎の装いなのであろうか。 そう思ってもう一度じっくり娘を窺うが、汗を浮かべて屋渡りの作業を続ける横顔には、身を売る女特有の物憂げな翳りはない。むしろ眩しいほどに溌剌としている。 この娘は女郎ではないのだろうか? ではこのような姿をしていることに、ほかにどんな理由があるというのだろうか。……もしやこの娘、着るものに困るほどに貧しいのか。
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