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斬撃がくる。
とっさに身をひるがえして近くの岩陰に飛び込んだ。間一髪だ。さっきまで俺が立っていた場所が、布をはさみで裂いたようにまっぷたつになった。割れた空間の狭間はすぐに閉じたが、凝視していたら気が触れてしまうほどにおぞましい闇だった。あれをくらったらと思うとゾッとする。
「おい! これを持っとけ!」
俺と同じく、数メートル離れた先の岩陰に身を隠したラッスルが、叫びながら口に咥えた瓶を放ってきた。受け取ると、瓶の中の神聖な液体がちゃぽんと音を立てる。
「こんなの、何の役に立つんだ。おまえが持っとけっつったろ」
最後まで言う前に投げ返そうと腕を振りかぶる。と、そのすぐそばを斬撃がかすめていった。あぶない、岩陰から出ちまってた。
「役に立つわっ! 悔しいが、オレっちが食らえば即死だ! 持っててもムダなんだよ!」
「なるほど、たしかに。おまえ弱いもんな」
「んだとぉ、コラ!」
こんな呑気なことをしている場合ではない。隠れている岩がすべて削られて無くならないうちに。
ラッスルに回復薬を投げ返すと、
「俺が突っ込む。お前はそれでサポートしろ」
「おいてめっ、ムチャすんなっ!」
風のように襲いかかってくる斬撃を弾き返しながら、着々と前進していく。
噂どおりの強さだ。半端な覚悟で挑むと精神を持っていかれる。
見せつけられたその経験の差に、果たして本当にこいつに勝てるのか、つい弱音を吐きたくなる。そして、また再び彼女に会えるのだろうか。そもそも、こうなったのも全部あの爺さんのせいだ。今度会ったらぶん殴ってやる……。俺だから良かったものの。
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