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「いたぞー!」
だがやはり、警備の目は誤魔化せなかったようだ。
やけに後方がドカドカと騒がしいなと思ったら、大臣派の衛騎士が三人ほど、追いかけてきていた。
「見つかったか! 急げ!」
いくら国王といえど、一度は捕まった身だ。追いつかれたら次こそ命の危機だろう。
おまけに国王は高貴な装束に見を包み、なおかつ俺たちのように普段から激しい運動などしていないだろう。このまま逃げ続けていても、いずれは追いつかれる。
俺は走りながら、フェイダに耳打ちする。
「後ろのやつらは俺がやろう。おまえはエーサーと国王たちを守りながら、先に行け」
皇太子やエーサーにこれを言わなかったのは、フェイダは残って自分も一緒に足止めするとか言い出すに違いないからだ。そのための牽制だ。
フェイダはなにか言いたそうにしていたが、すぐに意図を汲み取って、「……わかりました」と頷いてくれた。
「おいサロス、頼むぞ」
「誰にものを言っている」
言葉はいらないな。俺は立ち止まり、一行を先に行かせた。どれ、この国の衛騎士団とやらはいかほどのものか。腕試しといこう。
手の平を上に向け、ちょいちょいと挑発してやる。
槍を振りかざしながら向かってきた一人の攻撃を避け、無防備なその顔面に拳をお見舞いする。予備動作で、どんな攻撃をしてくるか丸わかりだ。こんなにも動きがあからさまでは、「今から攻撃するので避けてくださいね」と明言しているようなものだろうに。
鼻血を噴きながら倒れる仲間を尻目に、残りの二人が同じように向かってくる。なんでぃ、連携もクソもない。ただがむしゃらに武器を振り回してくるだけだ。衛騎士団が聞いて厭きれる。
まず攻撃を避ける。なんてことはない。じっくり慌てずに相手を読めば、どこからどう攻撃してくるかがわかる。それに対応して、どう避ければ最小限の動きだけで済むかを見極めればいい。
俺はほとんど動いていない。ひょいひょい、と避けて、あとはボカーンと殴るなり蹴るなりすれば、あとは勝手に負けてくれる。攻撃してくる者に対して、攻撃はできない。かならず防御が先だ。これでスムーズに勝てる。
三人を倒すと、また新たな奴らが現れた。今度は多いな。複数人だ。ざっと七人くらい。
軽く指を鳴らし、全身の関節の骨に信号を送って衝撃に馴染ませる。
今度はいきなり蹴りかかる。ワンパターンだと読まれやすいからな。戦法には緩急をつけるのが大事だ。
ぼやぼやしている暇はない。こっちの攻撃が当たったら、すぐに全神経を集中させ、避けることに専念する。なんせ数が多いからな。彼らがそれぞれひとつの動作をしたら、俺から見れば七つの武器が一斉に我が身に降りかかることになる。これが複数人の最大の強みだ。
隙を見つけて攻撃して、次はまた回避の連続。これの繰り返しだ。少人数用と、大人数用の戦い方を器用に使い分ける。こうすることによって、切り替えに慣れ、型にはまった戦いができる。
最後の一人の甲冑に、一発を見舞う。さすがにそれだけじゃダメージは少ないか。こっちが少し痛い。ならば、たまには力業も必要だ。一対一なら、そいつにだけ気を付けていればいい。場所が広いとそうも言ってられないが、ここは城内の廊下。左右が阻まれているので、伏兵の心配もない。
右手の突きは、盾でガードされたが、それは囮だ。ガードさせるため、わざと大振りで攻撃したのだ。俺の左手の本命が、鎧と鎧の張り合わせの一番薄い部分に入った。相手が怯んだら、もうこっちのものだ。呼吸すら許さない追撃で殴り続け、最後の一発を思い切り決める。
吐瀉物を撒き散らしながら倒れることになるとは気の毒だ。大臣じゃなく、国王側についたほうが幸せだったな。
フェイダたちの後を追うと、すぐさま追いついた。そんなに時間はかからなかったと言ったら、皇太子と国王は目を丸くしていた。
「フフン、ま、アレンは強いですからね。当たり前です」
「なぜおまえが誇るんだ」
「わっはっは! さすがは儂の用心棒じゃな。いい運動になったか?」
「まあな。だが、国王よ。衛騎士たちにはもう少し厳しい鍛錬をさせないと、いざというとき困りますよ」
痛いところを突かれたらしく、国王のみならず、側近の衛兵たちも苦笑いしていた。
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