クエスト17

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 横穴の入口は、四つん這いになってやっと通れるほどの広さだったが、徐々に天井が高くなり、ついには大人が四人並んで歩行できるほどまでになった。  エーサーの松明が照らす範囲は狭いが、それでも暗闇の中の灯火は明るく、よく見通せる。 「……災厄であったな」  初めてだ。サロスから話を振られた。彼なりに、今回の騒動に俺たちを巻き込んでしまったことに、落ち目を感じているのだろうか? 「いざこざは慣れっこだ。気にするな」 「勝手に付いてきたのは貴様だ。礼は言わんぞ」  と言ったサロスの頭を、スパーン、といい音を反響させて叩いたのはエーサーだ。無言の圧力に、サロスだけでなく、俺もちょっと気圧された。 「……貴様がいなければ、姫も……我もどうなっていたことか。……借りができてしまった」  そのヘソの曲がった言い分に、エーサーは眉をひそめていたが、これがサロスなりの精いっぱいの感謝の表れらしい。 「うむ、儂からも、改めて礼を言わせてくれ。アレン、そしてフェイダよ。あのときおぬしらに会えて良かった。そこで折り入って頼みがあるんじゃが、聞いてくれるか?」 「この期に及んでか?」 「そう茶化すでない。儂は故郷ユントールでも、居場所という居場所がなかった。母上は、実子である義弟をかわいがり、儂は王しか真なる身内がいなかった。その王も、いまや病で床に伏せておる。恐らくもう永くはない。そんなところへ、危険を冒してまで帰れない――いや、違うな。戻りたくはないのじゃ」  まあ、そうなるだろうな。ユントール現女皇が大臣と内通している以上、どんなかたちであっても帰国するのは適切でない。それでなくとも、エーサーは今回の件で、表向きは暗殺されたことになっている。訃報はすぐさまにユントールにも届くだろう。 「そこでじゃ。儂はこれから、旅に出ようと思う。“ユントール皇女”や、“ハルギア国の妃殿下”という肩書きを捨て、エーサーというただの旅人を受け入れてくれる国を探そうと思う。おぬしらには、その手伝いをしてもらいたい」 「いいぜ、別に。ついでだしな。……いいよな?」 「私も大歓迎ですよ」 「ふふん、では移住先が見つかるまでの辛抱じゃ。厄介になるぞ」 「それはいいが、専属の騎士(ナイト)様はどうするんだ? お役御免か?」 「んー、まあそうじゃな。姫でなくなった以上、ただの旅人である儂を護衛する必要もなくなったということじゃ。そんな理由で、サロスよ。おぬしはクビじゃ。この抜け道を抜けたら、どこへでも好きなところに往くがいいぞ」 「………………」  解雇(クビ)を宣言されたサロスは、どう反応するのかと思って、様子を見ていたが、 「うぇ!? おいおい……」  号泣した。  涙をボロボロこぼし、唇から血が出るほど噛み締め、顔をくしゃくしゃにしていた。 「我は……命に換えましても……貴女様をお守りしてきました……。我から、我が生きる喜びである使命を……奪わないで頂きたい……!」 「よいよい、冗談じゃ! ほんの戯れよ! おぬしのことは誰よりも信頼しておる!」 「どうか、どうか……。今一度、我をお側に……!」 「あー、わかったら泣くのを止めぬか、みっともない!」  人目をはばからず、大の男がびょーびょー泣くとは……。それほどエーサーのことが好きなのか。 「サロスさんって、図体のわりには意外と涙もろいんですね……。ちょっと引きます」 「おいサロス。まだ安全に脱出できたわけじゃないんだ。泣くのはお天道様を拝めてからにしろよ。外に出た途端、大臣一派が待ち伏せしている可能性だってあるんだからよ」  もしくは、この秘密の抜け道がバレて、あとを追いかけられているとかな。前からも来ていて挟み撃ちにされちゃ溜まったもんじゃない。  と懸念していたら、前方から光を見つけた。どうやら出口がもうすぐらしい。 「いいか、気をつけろよ、おまえら。さっきも言ったとおり、待ち伏せしているかもしれないからな。俺が先に様子を見る。合図を送るから、そしたらサロスから一人ずつ来い。いいな?」  全員が頷いたのを確認し、俺はこっそりと光の中に顔を突っ込む。抜け道の途中から目を瞑って歩いていたため、明るいところではすぐに目が慣れた。  
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