七月、うだる暑さのある夏の日

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ゆき乃は、ぼんやりと窓の外を眺める。それから振り返る。 客間に敷かれた布団の上で、ましろが軽くいびきをかきながら寝ている。 無邪気な寝姿にゆき乃はフッと微笑んだ。けれどすぐに真顔になる。ゆき乃が見たましろの姿、それは一瞬で元に戻ったけれど……。 (ましろは白狐の血を受け継いでる) 早すぎる……今はなぜ母の葛の葉が白狐の神通力を封印していたのかわかる。 ましろの力がどの程度か分からないけれど、もし狐火で攻撃できるほどであれば、子供に拳銃を持たせるようなものだ。 ゆき乃はため息をついた。 光流に言ったらどうなるのだろう。ましろも式神にするだろうか? そうなれば可愛い姪は危険と隣り合わせの生活になる。まだハッキリと力が現れるまで黙っていた方がいいのかもしれない。忙しい光流を煩わせることになるかもしれない。 式神だった十代のときの自分はなんでも光流に話し、相談していた。夫婦となったのに光流の忙しさを気遣うあまり、近ごろは「言ってないこと」が増えていく気がする。 ゆき乃はポケットの中の鍵を握った。 誰かに相談したい。 「先生……」 「誰か」でいいはずがなかった。 ゆき乃は鍵を取り出し、手のひらに乗せる。鈍く光る鍵。 あの頃は命の危険を感じることが何度もあったけれど、光流と豊川、シロとクロ、お美津狐という仲間が常にいて、心細いということはなかった。 それに町の妖怪たちも助けてくれた。 「そうだ、ぎーちゃん」 ゆき乃は可愛らしく笑う河童を思い出した。それから、かっぱ橋の方を眺める。 「……」 ゆき乃のそんな様子を、いつからか目を覚ましていたましろがじっと見つめていた。
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