七月、うだる暑さのある夏の日

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「次は……」 光流は社務所に戻り、神事の予定表を見た。予定表はびっちりと埋まっている。 人は神に様々なお願いをする。受験の合格、安産、商売繁昌、病気平癒、お宮参り。 結婚式などは事前に予約が必要であるが、安産祈願などは予約なしで受け付けている。 なぜか最近は祈願が多い。 何年か前も祈願が多い日が続いた。人は何かに不安を感じると神に頼りたくなるらしい。きっと敏感な人は、気がついているのだ。 今後、起こるであろう災厄を。 ある人はその不安が商売へと向き商売繁昌を、ある人は持病へと向き病気平癒を、そして、ある人は身ごもっている赤ん坊を心配し安産祈願を。 「あの頃と同じだ」 光流は眉を顰めた。 今は光流の式神である本田。その頃の本田は身の内に潜む在原業平の魂に支配され、鬼となった。本田は東京を崩壊させるべく、様々な画策をし実行した。 普通の人々には、ただ突風が吹いたり、雷が落ちたり、災害が多いように感じても、敏感な人は生命の危機を感じていた。 そして、その時も祈願が増えたのだった。 「平将門の呪いか」 神社二社、成田山新勝寺、そして山の手線の線路で封印された将門の怨霊が長年の怨みを抱え、今、復活しようとしていた。 儀式前の誰もいない静まった社殿。 「浅草の大神様、あなたがましろを呼ばれたのですか?」 光流は神に尋ねた。返事はなかったけれど、空気がさわさわと動いた。 何かを察し、光流は本殿に鎮座する神に深く頭を下げた。 ましろの7月の夏休みは今日で終わった。
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