八月、入道雲と夕立ちのある日

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「あー、あー、どうしよう」 床を転がりながら、ジタバタと手足を動かすましろ。 夏休みは始まったばかりだと思っていたのに、あっという間に7月は過ぎ去って行った。 (毎日1ページずつやるはずのドリル。1ページもやらずに8月に突入してしまった。暑さのせいだ。東京の暑さが私をダメにする……) これは、ゆき乃や光流に聞かれたら怒られるから心の中で愚痴った。 東京の刺すような日差しと、むうっと滞った熱気と湿気はサウナの中にいるようで、息苦しく不快だ。 かと言ってゆき乃について行ったスーパーやカフェの冷房は冷蔵庫のような寒さだ。つい3日前も、暑いからとカフェでかき氷を食べたましろは、すぐに歯をガチガチと震わせ、ゆき乃を心配させた。 茨城では家のクーラーは滅多に使わない。暑くても風がよく通り、蒸し暑さはない。夜は窓を開けていれば、扇風機もいらないくらいだ。 「ばあちゃんがよく土のおかげで人間は快適に暮らせるって言ってたけど、ほんとなんだなー」 土は昼の熱さを吸収して、夜は夜露を吸って冷気を帯びる。 ましろは自分の指をかざしてみる。東京にきてから爪の間に土が入り込んでいない綺麗な指だ。土が少し恋しい。 「でも東京もあと半月か……」 ましろが浅草にいられるのはお盆明けまでだ。 「どうしよう……」 宿題のことだけではない。どうしようもなく切ない。 「うわーーーー」 ましろは身悶えた。 今、とても会いたい人がいる。
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