八月、入道雲と夕立ちのある日

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7月のあの日から、ましろは何度かクロに会った。 クロはいつも優しい笑顔を向けてくれるけれど、それがかえってましろを寂しくさせた。 ましろはクラスでも活発な方で、女子よりも男子との方が気が合う。いまだに打ち解けていない何人かのクラスの女子にましろが向ける笑顔は友好的に見せようとする手段だった。 ましろは女の子らしい女子が苦手だった。 けれど、背が高く実は美少女であるましろは、クラスの女子から変身させてみたいと思わせる魅力があるらしい。 着せ替え人形かゲームのアイドルプロデュースのように女子はましろに「こういう服を着なよ」とアドバイスする。 その女子たちに「寺門さんも一緒にトイレに行こうよー」と誘われるとうんざりする。彼女たちはトイレという共有の時間で友好を深めようという考えらしいが、不浄と呼ばれるトイレで良好な関係が築けるはずがないとましろは思っている。 「御不浄で本を読めばその知識は身につかないし、便器に座りながら携帯で連絡を取れば相手とはいい関係になれないよ」 そう、ましろの祖母がよく言うのだった。 ましろはトイレに誘われると「後で行くね」と愛想笑いをする。 それにクロの笑顔は似ていた。優しく親しげなのに感じる距離。 ましろは寝転んだまま、窓から青い空を見上げた。 「今日のとこまでドリルを終わらせる。絶対やる!」 そう言って拳を突き上げる。その目標が達成できれば何かが変わる気がした。
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