八月、入道雲と夕立ちのある日

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「やらなきゃ!」 鉛筆を構えて、ましろは算数ドリルを睨む。難しい問題ではない。集中すればあっという間に終わるはずだ。 「よーい、ドン!」 ましろは鉛筆を走らせた。単純な計算式は簡単に終わる。けれど、応用問題で鉛筆が止まった。5人家族でホールケーキを等分に分けるという問題だ。 ましろの家族は大人数だ。敷地内に3世帯と叔母家族、総勢10人が住んでいる。 東京では5人家族は多い方だという。 「うちで買ってるような大きい丸いケーキ買ったら食べきれないじゃん。どうするの?1人分をでっかく切るしかないよね」 今までどんな大きなホールケーキでも余るということを経験したことがないから想像がつかない。 「光流とゆき乃はどうしてるんだろう? 丸いケーキを半分こ? えぇ、羨ましい!」 ケーキのことばかり考えていたら、お腹が空いてきた。 「あーーケーキ食べたいぃ。ケーキ食べたら頑張れる気がするぅ」 床をゴロゴロと身悶えているとノックがされ、返事をする前にドアが開けられた。慌てて起き上がる余裕もない。 「な、何をしてるんだお前は。勉強してるのか?」 「光流! いいよって言う前に開けないでよ」 抗議するましろの頬は恥ずかしさで紅潮している。 「ちゃんとやってるのか、抜き打ちで見にきたんだよ。そしたら案の定、寝てるし」 「寝てない! 身悶えててたの!」 「は?」 光流は呆けて口を開けた。 「ケーキ食べたい。ケーキ食べなきゃこの問題解けない……」 ましろは懇願するように光流を見つめた。
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