八月、入道雲と夕立ちのある日

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「おい、ちゃんと終わらせてから言えよ」 袴姿の光流は腕を組んでため息をつく。叱られたくないましろは慌てた。 「違うの! ケーキの問題なの! ケーキがあれば解けるの!」 「違くないだろ、 どれだよ?」 光流は算数ドリルを覗き込むように座った。 「このケーキの問題と、そのあとの棒グラフも」 光流はドリルを睨む。それからペラペラとページをめくる。 「違う。そっちのページじゃなくて、さっき渡したページだよ」 ましろがページを戻そうとすると光流はドリルを取り上げた。 「答えのページはどこだ?」 「えぇっ!」 ましろは犯罪者を見るような目つきで光流を見る。そんなズルは絶対にしてはいけないのに。 「大人はいいんだ」 「もしかして、光流わかんないの?」 ましろは冷ややかに言った。 「分からないんじゃなくて確認すんだよ」 「やだ!」 「やだってなんだよ」 「光流じゃなくてクロお兄ちゃんに教わる」 光流は苛だたしげに頭をかいた。 「はぁ? アイツだって忙しいんだよ」 ましろはいいことを思いついた。 「じゃあ算数じゃなくて、違うこと教えて」 「違うこと?」 「おばあちゃんのことや、ゆき乃が狐だった時のこととか、あと荼枳尼天様って誰?」 「……」 光流はドリルを閉じて、ましろを見つめた。
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