1384人が本棚に入れています
本棚に追加
それから光流はゆっくりと口を動かした。
「荼枳尼天って何のことだ」
そう問われたましろは口をつぐむ。
「なぜお前が知っている?」と言われている気がする。
光流の視線に耐えきれずましろは、うわずった声で呟いた。
「鍵を……」
そこまで言って秘密だったことを思い出し、再び口をつぐむ。
「ましろ、もしかして覚えているのか?」
その問いに、ましろは目をみはる。
(それって私が荼枳尼天様に会ったことがあるってこと?)
そのとき、キラキラと輝く銀髪が目の前を過ぎた。
「え!?」
けれど次の瞬間に幻となって消えてしまった。
「なんだよ」
「ねぇ、光流。荼枳尼天様は長くてきれいな銀髪……?」
「やっぱり記憶にあるんだな?」
「記憶じゃないと思うけど」
記憶はなかった……あるのは感覚なのだと思う。目の前を通り過ぎる銀髪の感覚、その懐かしさ、それは記憶かと言われれば分からないと答えるしかない。
「なんか懐かしいような、ドキドキするような感じ」
「うん」
光流は静かに頷いた。
「だからって何にも覚えてないし、一体、荼枳尼天様ってなんなの?って感じ」
ましろは肩をすくめて生意気な態度をとった。
「そうか。そんな風に言ってる割にはお前、涙が……」
「え?」
ましろは頬に触れた。気がつかないうちに涙が頬を伝っていた。それは、ましろという肉体からの涙ではなく、魂からの涙だった。
「……?」
外出しているゆき乃は、ふと空を見上げる。巨大な入道雲がゆき乃を見下ろしていた。
最初のコメントを投稿しよう!