七月、うだる暑さのある夏の日

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「暑い、暑い、暑いー」 歩く足が汗に濡れて重い。真夏の東京は身体が溶けそうなほどの暑さだ。 光流とゆき乃の結婚式から二年後の夏。 小学三年生になったましろは茨城の常陸太田から浅草に来ていた。照らされたアスファルトの熱はビルに遮られて逃げ場をなくし、こもっている。 けれど、すれ違う日傘の女性やスーツの男性は一言も不満を漏らさず、姿勢正しく歩いている。 「どうしてこんな暑いのに東京の人は涼しい顔してんのー? かっこつけてるのかなぁ」 二年前より背も髪も伸びたけれど、女の子らしさは育たなかったようだ。 ショートパンツにTシャツ、大きなリュックを背負うましろは男の子のように見える。 「あー、マジで暑ちぃ」 そう言った直後、ましろのポニーテールが何者かによってグンと引かれた。 「痛っ!」 勢いよく振り返ると、見覚えある顔がそこにあった。 「お前、小学生でそんなんじゃ将来おなべ確定だな」 そう言って呆れたように笑う藍色の瞳。
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