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アラカナは機体を30度左に傾けると、操縦桿を引いた。
身体に遠心力がのしかかる。
竜巻に飲まれた木の葉のようにゆるりとしたカーブで上昇し、頭上にいたドラゴンフライの腹を見上げる位置にピタリと着く。
『ここだ!』
機銃の引き金を引いた。
標的の白く柔らかい腹に弾丸の雨が吸い込まれる。
全弾命中だった。
絶命したドラゴンフライは地上に沈んでいった。
『ヒューッ! グッドキル、ヘミー! 絶好調だな!』
『まだまだァ!』
カーツの熱い称賛で調子付いたアラカナは、機体を水平にし、操縦桿をぐいと引く。
空へ向かって宙返りの体勢に入る。
眼下にドラゴンフライが見える。
敵を撃墜したばかりのカミノの背後に忍び寄っていた。
次の標的は決まった。
速度を落とし旋回半径を縮めようとする。
ふと地面が迫ってくるイメージが目を覆った。
気付けばプロペラのブレーキに余計な力が入っていた。
機体がグラつく。
背筋が凍り、時が止まる。
「失速(ストール)」だ。
鉄の翼が身体を持ち上げる仕事を失ったのだ。
戦闘機の制御が不能になる。
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