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――
数年後。
黄色いプロペラ戦闘機がまっすぐ飛んで霧を裂く。
機銃から放たれた弾丸は、ドラゴンフライの柔らかな部分にいくつもの風穴を空けた。
『グーッドキル、ヘミー!』
ラジオ無線機からカーツ・キマリーの陽気な称賛が届いた。
『ありがとう、カーツ』
と、戦闘機に乗るアラカナ・ヘムラインは操縦桿を強く握り締めてはにかむ。
彼はまっすぐな男だ。
しかし笑顔は長く続かなかった。
『アラカナくん、後ろ後ろ! 逃げて!』
無線から聞こえる少女の焦燥する声。
カミノ・レットラウトだ。
バックミラーにドラゴンフライの大口が見えた。
『旋回だ! 急旋回しろ!』
カーツも慌てて叫ぶ。
しかしアラカナは急旋回ができなかった。
操縦桿を握る手が震える。
目の前を「墜落」の二文字が塞いでいた。
身体が言うことを聞かない。
アラカナは重度のトラウマを持っていた。
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