ラファエロの見ている毎日。

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私はクロと呼ばれておる。 親からは「ラファエロ」という名を貰ったが、庶民には理解出来ぬのか、それとも私が黒猫だからクロなのか理解出来ぬが、その名だ。 店主の名は知らぬ。 店に来た客が「まりこさん」と呼んでいるから「まりこ」なんだろうが、私は「まりこ」と呼んでも人間には「なー」としか聞こえぬから、どうでもよい。 まりこは、道楽で店をやっているとしか思えぬ。 とんと客が来ないのに、朝早くから起きて急がしそうにしているが、何日かに1人来れば良いところではないか。 店には「アート」とまりこが呼んでいる、にょろにょろした線を似合わぬ額縁に入れているから人間とはよく分からない。 まりこは、時折「墨」と呼ばれる黒い液体を「硯(すずり)」と呼ぶ黒い石に出し、大小様々な「筆」を使い、精神統一をして「半紙」という紙に気合いを込めて、にょろにょろした線を書く。 来た客は「凄くお上手ですね~」とおべっかを使い褒めておるが、どこが上手いのか分からぬ。 にょろにょろした線のどこが上手いのやら… 私が半紙で爪研ぎをしたら、酷く怒ってからに。 でも、まりこの事は好きだ。 ひもじい思いをしていた私に飯と雨風を凌げる場所を用意してくれたからには、恩の一つも返さねば男が廃る。 私は、日の当たる場所を求めて一日移動しながら日向ぼっこと居眠りを繰り返す。 「なー」と私が鳴けば飯が出る。 だから、お客に少々の手荒な事をされても黙っておる。いざとなれば逃げれば良い。 私には「クロ」というまりこから頂いた名前があるのに、「チェリー」やら「キッド」やら好き勝手に呼んでおる。 年をとった方は「クロ」で統一しておるからありがたい。 たまに、まりこの師匠が来たり、子供が字を習いにやってくるが、まりこはあまりに大勢で来られるとてんやわんやになってしまうから、店など務まるはずはない。 本当に儲かっておるのか?と、人間に変装して客のフリをして訪れるが、客は居ない。 私に対して余程暇なのか、じーっと見ていた線に対して語っておる。小一時間も話されたから、私もどうしたモノか困ってしまった… 私はただ良い日向ぼっこ場所を見つけたから、その場所に行く為の経路を考えていただけだというのに… この店のお客は、とにかく暇をもて余しておる。 私は日向ぼっこしながら、話を聞くのが趣味といえば趣味になるだろう…
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