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俺の住んでいる場所は、隆司が平井君に言っていたらしい。
だから、入りたい大学が近くなのもあって、ここを選んだ。
──俺に、謝る為に。しかも、このアパートで唯一空いているのが202号室だけだった事から、尚更自分に贖罪のチャンスを与えてくれているものだと考え、決めたそうだ。
だから時折、様子がおかしかったのだと合点がいった。ずっと、こうする機会を窺っていたのだろう。
けれど、少し疑問が残った。
確かに、きっかけは平井君の言葉だったかもしれない。でも、羨ましそうな隆司を思い、バイクを貸してくれたのだから、むしろ平井君には感謝の気持ちが湧いてくる。
結果はこうなってしまったが……それでも、平井君を責める事などできようか。
だから、平井君は何も悪くないと慰めても、頭をあげぬままかぶりを振り、俺の所為だ、俺は人殺しだ、と言い、そして謝罪の言葉を口にするばかり。
俺の脳内に、ある嫌な予感が過る。
「まさか……香澄──俺の元妻に、何か言われたのか?」
その瞬間。平井君が、見てわかるくらいに、びくっと体を震わせた。
その次に付け加えるかのように首を振ったが、もう遅い。
俺は、問いただした。もちろん、彼を責めるようなキツイ口調ではない。それでも、人の良い彼が自分を責めている──そんな現状が納得できなくて、彼にかける一言一句に真剣さを滲ませる。
そしてようやく事情を話してくれて……、平井君の様子がおかしい理由の全貌が、わかった。
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