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隆司の自宅に、平井君と彼の母が謝罪に向かった時のことだ。
『あんたの所為で、うちの子どもは亡くなったんだ』
部屋に通され、開口一番。彼は香澄に、そう言われたらしい。
『っ……』
『ちょ、ちょっと待ってください! いきなりなんて事を……』
『本当の事だろ!? あんたの子どもが貸したバイクの所為でうちの子どもが亡くなったんだ!
慰謝料を寄越せ!』
これにはさすがに黙っていられなくなり、彼の母は負けじと口を開いた。
『っ……運転をしていたのは、貴方のお子さんだそうですね』
『関係ない!! 早く金を払え!!』
『……翔、部屋を出ていなさい』
『でも……』
『いいから、早く』
彼はうなずき、玄関に向かった。
『おいっ、話は終わってないだろ人殺し!!』
『……だったら裁判で訴えてみてください。
百%そちらが負けますよ』
『はあっ!?』
『むしろ、バイクの修繕費と私の息子の治療費の支払いを命じられる。
貴女がお子さんを亡くして可哀想だと思ったから、請求していないんです』
『っ……ふざけんなよ!
人殺しのガキを生んだクソ女!!』
『……お悔やみ申し上げます』
それだけ言って頭を下げ、彼女も早々と香澄に背を向けた。
背中に罵声を受けながら、入り口の外で不安そうに佇んでいた息子をそっと抱きしめる。
『母さん、俺……』
『大丈夫。貴方は人殺しなんかじゃないから』
その言葉は、少し震えながらも、力強さを含んでいた。
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