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バイクは、俺にとっても生き甲斐だった。
香澄と別れてここに越してからは、ほとんど乗らなくなってしまったが。
昔は隆司が生まれてからも乗り続け、よく隆司を後ろに乗せたりもしたもんだ。
何回か乗せたのち、今度は俺が親父を後ろに乗せてやるから! と言ってくれた事が懐かしい。
その言葉を、こっちに来てからも忘れた事はなかったが……もう永遠に、叶わなくなってしまった。
いや……、もうそれは良い。
仮に生きていたとしても、叶わなかったと思う。
単純に、何年も前の話だから忘れていたかもしれない、というのもある。けれど何より、息子を置いて出ていった父親など、乗せたい気持ちになるだろうか。
きっと、会いたくもなかっただろう。
俺を恨んでいた可能性だってある。
……俺があの時引き取ってあげていれば、隆司は死ななかっただろうか。
時折、そう考える。結果論だ。だから、どんな未来を推測したって、何も変わらない。
あの時は、子どもはやはり母親の元にいるのが一番だろうと決めつけ、置いてきてしまった。
でも、こんな事になるなら……それとも、仮にこっちに来ていたとしても、隆司の未来は変わらなかったのか。
「……あ」
しまった。悩みすぎて、ついついビールを飲み進めて……気が付けば、空の缶が机の上を占領している。
今夜の晩ご飯の予定の鍋は、未だ食材が冷蔵庫で眠っているままだ。
酒のストックは……もう無い。
……飲み過ぎた。
「……仕方ねえ。買い足すか」
頭をガシガシと掻く。それから部屋を出て、近くのコンビニに向かった。
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