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「手伝いますよ」
「大丈夫。平井君はお客さんなんだから」
「いえ、俺こう見えて料理は得意なんです。任せてください!」
「んー……わかった。それじゃあ、野菜を切ってもらおうかな」
「了解っす」
台所で、トントンっと、包丁を使う音が二つ分。
平井君の包丁使いを見ていると、確かに手際が良い。普段からやりこんでいる様子が窺える。
「それにしても、料理が得意なんて偉いね」
「小さい頃に父が死んじゃったんで。母さんは仕事で遅くまでいないし、自然と……」
「……そうか」
「だから、大体何でも作れるっす! 前に彼女の手作り菓子のお礼に自分も手作り菓子で返したら、私のより何倍も美味しいなんてって泣かせちゃったりとか」
「わはは、女心は難しいな」
こうしていると、本当になんというか……一緒に具材を切っているだけなのに、くすぐったいというか、温かい気持ちになるというか……。
もちろん、親しい人物と会話を交えれば、楽しくなるのは必然。
けれども……やはり自分は、重ねているのだろう。
平井君と、隆司を。
そして父性が溢れ、こうして親子らしい会話や行動をする事で、気持ちを落ち着けているのかもしれない。
あるいは、許されたつもりにでもなっているのか。
彼は実は隆司で、こうして実の父である俺に会い、恨んではいないよと、言いに来てくれたのではないか。
……そんな有り得ない妄想が浮かび、自分はなんて嫌な人間なんだと、益々嫌悪感が湧き起こってきた。
具材の準備を終える。
次に居間のこたつテーブルに鍋を用意して、具材や調味料を入れた。
寄せ鍋だ。
あとは鍋蓋をして、出来上がりを待つのみ。
「よし、これでもうすぐ完成だ」
平井君が台所から近寄ってきた気配を感じて、テーブルのそばに座っていた俺は、そのまま彼を見上げる。
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