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社会人になって早二年が経過したが、未だに社会の荒波に揉まれている。
このマンションの一室を借りて早一年経つのか。
仕事に行く憂鬱を抱えて、俺は外へ出る玄関を開けた。
鍵を閉めていると、唐突に声をかけられた。
「あの、すいません」
声のしたほうに顔を向けると、すらりとした長身の女性が立っていた。
艶のある黒髪を肩まで垂らし、顔立ちはいわゆる美人である。
まるでファッション雑誌から飛び出たような美女と遭遇する確率を考えると、返す言葉もなく見とれてしまった。
よけいに仕事にいく憂鬱さが増していく。
「ここ、田島ヒロの部屋で間違いないですか?」
隣人が住んでるドアを指差して、美女は尋ねた。
田島ヒロとは、ここに引っ越してきた当初から年齢が近いおかげで、そこそこの付き合いがあった。
一緒に夕飯を食べたりはしているが、田島ヒロと目の前の美女との共通点が見つからない。
「はい。間違いないです」
いろいろ思案するも、結局は正直に返答した。
「そう、ありがとう。これからよろしくね」
美女はドアのほうに視線を上げて、何か感慨深い顔をしてその場を立ち去った。
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