第1章

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美女は確かに言った。 これからよろしくね、と。 満員電車に揺られながら、ずっとその言葉が反芻している。 あの美女が、越してくるのか。 俺の隣りの部屋に。 それなら、いくらか気分が弾む。 だが、よくよく考えてみろ俺。 田島ヒロの部屋に越してくるってことは、あの美女と田島ヒロの和気あいあいとした声が壁から漏れて聞こえてくるってことだ。 駄目だ。 シングルの俺には、酷すぎる仕打ちだ。 ああ、なにかしらの権限があったら阻止したい。 そもそも、田島ヒロは女とは無縁な人間だと思っていた。 俺の場合は、仕事の多忙が原因で恋人と別れてしまった。作ろうと思えば、仕事を辞めれば済む話だけのこと。 一方の田島ヒロは、女性に対して苦手意識がある。 たとえ意中の女性がいても、声をかけることさえできないから、最終的には見守るという形式に落ち着くんだと言っていた。 俺はそれを鵜呑みにしていたわけだ。 あの美女が現れるまでは。 なんだろう。 地味に沸々と怒りが、朝からやってきた。
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