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六
ある日の下校途中のことだ。
「気をつけて、カナミ。車に水しぶきかけられるよ」
アリスがいきなり、傘を車道へ向けて真横にした。
「え? そんなことしたら濡れちゃ……」
「ほら、早く!」
彼女はわたしの傘の柄を握ると、むりやり横に向けさせた。
その瞬間ーー
「きゃ……!」
クラクションとともに大量の水しぶきが歩道へぶちまけられた。トラックが側溝の水たまりを踏みつけて去っていったのだ。
すぐ後ろを歩いていた別の女子高生グループは、全員びしょ濡れになって悲鳴を上げている。
しかしわたしたちは、事前のアリスの警告のおかげで少しも濡れていない。
「すごい。なんでわかったの、アリス?」
「わかんない。ただ、なんとなく? デジャヴってやつかも。最近、多いんだよね」
「ふうん? まあただの偶然なんだろうけど。タイミングよすぎて感動しちゃった」
――けれど、彼女のそれは偶然などではなかった。
以降もたびたび、似たような状況でアリスがわたしを助けてくれることがあった。
人身事故で電車が遅れるはずだから早めに家を出ようとか、予報が外れるから傘を持って行こうとか、抜き打ちテストがあるから勉強しておこう、とか……。
彼女がそう言うことを言い出したとき、外れたことは一度もなかった。
いつだったか、どうして未来のことがわかるのか問い詰めた時、彼女は不思議そうな顔をしてこう教えてくれた。
「よくわからない。ただ、時々忘れてた記憶を思い出すみたいに、未来の光景が脳裏に浮かぶことがあるの。それも、カナミ。あなたと一緒にいる時だけ。ひょっとしたら、この力はあなたを守るために神様が与えてくれたものなのかもね」
得意げになって彼女は笑っていたが、わたしにはすんなりと受け入れがたい言葉だった。
アリスの予言は徐々に頻度を増し、その内容もより具体的になっていった。
彼女の力に頼るまいと思ってはいても、どうしても言われるがままの行動を取ってしまう。
高校三年になった頃には、彼女は期末試験の問題を一週間も前に完全に言い当てるようになっていた。
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