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「オカ板まとめ出張所……っていってもわからないか。早い話、オカルト系の話題が集まってくる匿名掲示板だよ。彼女、亡くなる直前まで部室のパソコンでこのスレッドを読んでたみたいなんだよね」
笹山が指差した画面の隅っこに、小さく書かれている文字。わたしはそれを、声に出して読んだ。
「『俺氏、未来人だがなんか質問ある』……?」
「そう、それ。そのスレッド。まあ早い話、自称タイムトラベラーの予知能力者が質問募集して、それに対して淡々と答えていく形式の、昔からよくある系統のスレッドだよ。大抵の場合、語るに落ちるって感じで、スレ主の矛盾点が読者に暴かれて終了って感じになるんだけど……。でも、このスレッドだけは未だにスレ主の矛盾点が見つからなくて、ずっと祭り状態が続いてるんだ」
「……すみません。あなたが何を言っているのか、わからない」
「あ、ごめん! 今のはぜんぜん主旨と関係ないから、忘れちゃってよ! ぼくが確認したいことはさ、つまりこういうこと! ……えっと……入谷さんって、予知能力めいたものとか持ってなかったかい?」
その言葉を聞いた瞬間、わたしは息を吸うことを忘れ、動きを完全に止めてしまった。
動機が急に激しくなり、胸が苦しくなる。
「な……なにをバカなことを……」
それだけ返すのが精一杯だった。
「うーん……やっぱり、そう思うよね? ……うん、自分でもバカだなぁって思うよ」
わたしの表情の変化には気づかなかったのだろうか。笹山は恥ずかしそうに後頭部を掻きながら言った。
「でも、彼女がこのスレッドを読んで何かしらのショックを受けて、そのまま遺言も残さずに死を選んだことは事実なんだよ。だから、どうしても気になってしまってね……。すまない。恋人を亡くしたばかりのキミに酷なことを聞いてしまった」
「いえ。あの、恋人って……?」
「うん? そういう関係だったんだろ? キミと入谷さんは」
「アリスがそれを?」
「まさか。単なるぼくの勘だよ。ちがったんなら、許してくれ」
「……いえ。……大丈夫です」
その時ちょうど、わたしの乗る電車がホームに入ってきた。電車に乗りこんだわたしを見送りながら、ホーム上の笹山は小さく手を振っていた。わたしは軽く会釈を返してから、さっそく自分のスマホを取り出して検索を始めた。
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