第1章

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   九  中学三年のわたしとアリスが、仲良く並んで並木道を歩いている。  どうやらわたしにはタイムトラベルの才能があったらしい。  過去の夢を見るトレーニングを初めてからたった一週間で、こんなにもはっきりと過去の世界を感じられるようになった。なぜか音は聞こえないが、きっと問題ない。  あとは頃合いを見計らって、中学三年のわたしに乗り移るだけだ。  今日は、いつも以上にリアルにこの世界を感じることができている。  さあ、今こそタイムトラベルを決行しようーー  わたしは中学三年のわたしへ向けて、見えない意識の手を伸ばしたーーと、その時。 『えーー?』  夢の中のわたしの顔が、不意にくしゃくしゃに歪んだ。  音が聞こえないのでよくわからない。  どうやらアリスと口論しているらしい。  中学時代にアリスと口論した記憶は、あの一度きりしかない。  つまり……  絶望に近い気持ちで、わたしは意識の視界を振り返らせた。  すると、あの日と全く同じように、交差点へ向けて一直線に駆けていくアリスの後ろ姿が…… 『いけない……! アリスっ……!』  とっさに行動に出ていた。  見えない意識の腕を、はるか遠くで車道に飛び出したばかりのアリスへむけて、思い切り伸ばす―― 「『えっ……?』」  いきなり世界が音を取り戻した。  視界もそれまでのどこかぼんやりとしたものから、くっきりと彩りを放つものに変わっている。  ――確信した。これは、完全に現実だ。  夢の中で、アリスに思い切り手を伸ばしたら、一瞬で夢と現実が反転した。  ……ということは、つまり……  どん……!  それは、思っていたよりは軽い衝撃ーー  けれど、華奢な『この体』を弾き飛ばすには十分な威力を持っていてーー  ふわりと浮かぶ感覚――  やけに時間の経過がゆっくりとしている――  ――わたしは必死になって『この世界のわたし』――『本来乗り移らなければならなかった体』を探して、目を動かす。  ……見つけた。  なんとか視界の片隅に、恐怖に顔を歪めている中三の自分を見つけた。  瞬間、わたしと『わたし』の目が合う。  これであとはこの体から出て、あの体の中に入ることさえできればもう安心……なんだけど、  ……でもいったい、どうやって?  そういえばそんなこと、あの掲示板のどこにも書かれてなかったっけ。
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