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九
中学三年のわたしとアリスが、仲良く並んで並木道を歩いている。
どうやらわたしにはタイムトラベルの才能があったらしい。
過去の夢を見るトレーニングを初めてからたった一週間で、こんなにもはっきりと過去の世界を感じられるようになった。なぜか音は聞こえないが、きっと問題ない。
あとは頃合いを見計らって、中学三年のわたしに乗り移るだけだ。
今日は、いつも以上にリアルにこの世界を感じることができている。
さあ、今こそタイムトラベルを決行しようーー
わたしは中学三年のわたしへ向けて、見えない意識の手を伸ばしたーーと、その時。
『えーー?』
夢の中のわたしの顔が、不意にくしゃくしゃに歪んだ。
音が聞こえないのでよくわからない。
どうやらアリスと口論しているらしい。
中学時代にアリスと口論した記憶は、あの一度きりしかない。
つまり……
絶望に近い気持ちで、わたしは意識の視界を振り返らせた。
すると、あの日と全く同じように、交差点へ向けて一直線に駆けていくアリスの後ろ姿が……
『いけない……! アリスっ……!』
とっさに行動に出ていた。
見えない意識の腕を、はるか遠くで車道に飛び出したばかりのアリスへむけて、思い切り伸ばす――
「『えっ……?』」
いきなり世界が音を取り戻した。
視界もそれまでのどこかぼんやりとしたものから、くっきりと彩りを放つものに変わっている。
――確信した。これは、完全に現実だ。
夢の中で、アリスに思い切り手を伸ばしたら、一瞬で夢と現実が反転した。
……ということは、つまり……
どん……!
それは、思っていたよりは軽い衝撃ーー
けれど、華奢な『この体』を弾き飛ばすには十分な威力を持っていてーー
ふわりと浮かぶ感覚――
やけに時間の経過がゆっくりとしている――
――わたしは必死になって『この世界のわたし』――『本来乗り移らなければならなかった体』を探して、目を動かす。
……見つけた。
なんとか視界の片隅に、恐怖に顔を歪めている中三の自分を見つけた。
瞬間、わたしと『わたし』の目が合う。
これであとはこの体から出て、あの体の中に入ることさえできればもう安心……なんだけど、
……でもいったい、どうやって?
そういえばそんなこと、あの掲示板のどこにも書かれてなかったっけ。
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