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二
わたしは学校でいじめられていた。
いじめの原因は、極度の「あがり症」。
家族以外の人を相手にすると、うまく言葉が操れなくなるのだ。
そのせいで学校ではいつも一人ぼっちだった。
本当はムカつく相手には口汚く罵り返してやりたい。
……でも、それがどうしてもできない。
だれに何をされても、曖昧な表情を返すことしかできない。
それがきっと、相手の嗜虐心を刺激するんだろう。
わたしは半ば、あきらめていた。もうきっと、わたしの人生でいいことなんて一つもないんだと思っていた。
その日もなかなか登校する気になれず、わざとギリギリの時間帯に家を出た。
途中でクラスメイトの誰かと会いたくなかったからだ。
「いってきます」
誰もいない玄関に、小さな声を残して外へ出る。
「……あれ?」
ふと、わたしは家のすぐそばで立ち尽くしている人影に気づいた。
なんてことだ。あれは、お隣のアリスちゃんだ。着ているのは、うちの中学の制服――まさか、今日から転校してくるのかな。
「あら? あなた、確かお隣の……?」
「あ、お、おお、おはよう、ご、ごじゃま……!」
あぁ……詰んだ。わたしの人生、詰んだ。
ほぼ初対面なのに、ぜったい変な子だと思われた。
「桜川、カナミさん、よね?」
「ふ、ふぇ?」
アリスちゃんがわたしの名前を覚えていてくれた。それもフルネームで。信じられない。
「よかった。その制服を着てるってことはあなたも同じ学校なのよね。実はわたし今日から転入するのだけど、道がよくわからなくて。よかったら連れてって?」
「え? そ、そんな……」
「迷惑?」
「そ、そそそ、そんなこと、なな、ないです……!」
だめだぁ! しゃべればしゃべるほどボロが出る! こんなんじゃ絶対にアリスちゃんに嫌われちゃう……!
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