第1章

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   二  わたしは学校でいじめられていた。  いじめの原因は、極度の「あがり症」。  家族以外の人を相手にすると、うまく言葉が操れなくなるのだ。  そのせいで学校ではいつも一人ぼっちだった。  本当はムカつく相手には口汚く罵り返してやりたい。  ……でも、それがどうしてもできない。  だれに何をされても、曖昧な表情を返すことしかできない。  それがきっと、相手の嗜虐心を刺激するんだろう。  わたしは半ば、あきらめていた。もうきっと、わたしの人生でいいことなんて一つもないんだと思っていた。  その日もなかなか登校する気になれず、わざとギリギリの時間帯に家を出た。  途中でクラスメイトの誰かと会いたくなかったからだ。 「いってきます」  誰もいない玄関に、小さな声を残して外へ出る。 「……あれ?」  ふと、わたしは家のすぐそばで立ち尽くしている人影に気づいた。  なんてことだ。あれは、お隣のアリスちゃんだ。着ているのは、うちの中学の制服――まさか、今日から転校してくるのかな。 「あら? あなた、確かお隣の……?」 「あ、お、おお、おはよう、ご、ごじゃま……!」  あぁ……詰んだ。わたしの人生、詰んだ。  ほぼ初対面なのに、ぜったい変な子だと思われた。 「桜川、カナミさん、よね?」 「ふ、ふぇ?」  アリスちゃんがわたしの名前を覚えていてくれた。それもフルネームで。信じられない。 「よかった。その制服を着てるってことはあなたも同じ学校なのよね。実はわたし今日から転入するのだけど、道がよくわからなくて。よかったら連れてって?」 「え? そ、そんな……」 「迷惑?」 「そ、そそそ、そんなこと、なな、ないです……!」  だめだぁ! しゃべればしゃべるほどボロが出る! こんなんじゃ絶対にアリスちゃんに嫌われちゃう……!
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