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「え……? なに、それ……?」
途端に、それまで上機嫌だったアリスの様子が一変した。
みるみる表情から温度が失われていき、わたしを見る視線が冷たいものになっていく。
これまで一度だってわたしに向けられたことのない顔だ。
怖い……けれど、言わなければ……
「う、うん……あのね、わたし、考えたんだけど……わたしもアリスも、最近ちょっと一緒にいすぎだよ……たまには、別々の時間も作ってさ。もっと、世界を広げたほうがいいんじゃないかなー、なんて……。ははは。例えば、交友関係、とか……」
「なによ、それ……? だってわたしたち、これまで何をするのも一緒だったじゃない? 今更、別の友達なんて……」
「だ、だから! ……そ、そういうのがよくないって言ってるんだよ。毎日毎日、いつも、な、なにをするのもずっといっしょって……や、やっぱりちょっとおかしいよっ……! ず、ずっと、いつか言おうって、思ってたんだ、けど……!」
ちがう。ちがうんだ。わたしはこんなこと、本当は言いたくなんてない。
……けれど他にどんな言葉で、アリスを遠ざけられるのかわからない。
わからないままに、わたしはどんどん鋭利な言葉を吐き出していく。
まるでその言葉が物理的な鋭さをもっていて、吐き出す度に自分の口内をカミソリの刃みたいにギザギザに傷つけていくような気がした。
「た、たまには、わたしだって一人になりたいんだよっ……! ア、アリスのお守りはも、もうたくさんなんだよっ……!」
いつの間にか、わたしは目を思い切りつぶっていた。
だから、その時アリスがどんな表情をしていたのかわからない。
走って遠ざかっていくような足音が聞こえて、わたしはようやく目を開けた。
「ア、アリス……! ……ちがうの!」
思わず叫んで、彼女の後ろ姿を追いかけ始める。
アリスの前方には、大きな交差点の横断歩道があった。
うつむきながら走る彼女は、明らかに信号を見ていない。
彼女の姿が交差点に入る直前に、歩行者用の信号が赤へと切り替わった。
「アリスっ!」
わたしは叫んだ。これまでの人生で最大の声を出した。
……けれど、その声は届かなかった。
響きわたる急ブレーキの耳障りな音。
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