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このアパートで過ごす二度目の春。
角部屋の私にとって唯一のお隣さんだったのは、見た目は不良っぽいのに面倒見がよくて料理上手なお兄さん。
そんな彼が引っ越すその当日、ご丁寧にも置き土産を手にインターホンを鳴らしてくれた。
「お兄さん、いなくなっちゃうんですね……」
「ハハハ! オレがいなくてもちゃんとメシ食えよオメェ。コンビニのパンでも、スーパーの総菜でもいいから」
「うう……。めちゃくちゃ頑張れるときは、お兄さん直伝のレシピを頼ります!」
「おうよ! オレの味からオメェの味に進化させろ。それが師匠の最後の言葉だ」
「最後だなんて言わないでくださいよ!」
お兄さんは違和感の少ない差し歯を見せびらかすように大きく口を開け、ケラケラと笑いながら私の肩を遠慮なくバシバシと叩く。
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