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数日後。外装がボロボロに見えるわりに内装は綺麗で、壁も床もぶ厚く騒音が気にならないこのアパート唯一の空室――お兄さんが住んでいた部屋に、新しい人がやってきた。
アパートの前には引っ越し業者さんのトラック。防音のしようがない共同の廊下に響くのは、業者さんの声。
どんな人がやってきたのだろう。そうワクワクしながら、ベランダで洗濯物を干していたときのことだ。
「意外と綺麗じゃん」
男女どちらでもいいような声だった。
その声がしたのは私の隣のベランダ側。間違いなく新しくやってきたお隣さんだと思い、横を向く。
視界に入ったその人のサラサラと風で揺れる黒髪は、肩で緩やかに跳ねている。背は私と同じくらい。
ジーンズにパーカーという性別を問わないラフなスタイルのその人は、手すりのボロボロさにだけ苦笑を浮かべ、寄りかかって空を見上げていた。
その横顔は見覚えなかったけれど、なんだか雰囲気が私と似ているような気がした。
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