第1章

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「うん…。ごめんね、親が離婚して、今は母親の旧姓『美山』なんだけど…」 そういうことか。 中2の夏。 須藤は突然 転校していってしまった。 家庭の事情だとは 聞いていた。 親が離婚 していたのか。 「引越しの日、家に来てくれたの、覚えてる…?」 「あたりまえ、だろ…」 須藤が引っ越してしまう日 本当は告白したかったんだけど 勇気のないオレは 手紙を渡したんだ。 自分の気持ちを ありのままに綴った手紙を。 最後に 「よければ連絡がほしい」と 自分の携帯番号まで載せた。 あれから2度 携帯を買い換えたが 番号を変えなかったのは どこかで 彼女からの連絡を 待っていたのかもしれない。 いまだに 彼女からの連絡は来ていないが。 「手紙、ありがとう…。すごく、すごく嬉しかった! 電話番号も…何度も、連絡しようとした。 でも、勇気が出なくって…。 時が経つにつれて、あぁ今更かな、もう忘れられちゃってるかなって思うようになって…」 彼女が 連絡しようとしてくれていた。 それだけ分かれば もう充分だ。 「だからさっき『須藤』て呼ばれて 本当にビックリした…。 ここに来てしまったこと、本当に後悔したの。あなたを犠牲にしようとするなんて、て…。 でも…でももう、後戻りできなくて…」 涙ながらに語る彼女の言葉に 嘘はないように思えた。 「…だからって、許してもらおうとは思わない。 自分のために、あなたにこんな、こんな…!本当にごめんなさい、ごめんなさ…」 わんわん泣き崩れた彼女の頭に 自分の小さな手をそっと乗せた。 「だいじょうぶ…なかないで。おれが きみでも おなじことをしていたかもしれない。 …ごめん、おれ、もういくよ。いそがないと…!」 「そう…そうよね。ごめんなさい…。私に何かできることがあったら、お願いだから、協力させて! 自分であなたに移しておいて、差し出がましいかもしれないけど…。」 「ありがとう!そのときは、おねがいするよ!」 まだ泣き顔の彼女を廊下に残して オレは自分の部屋に戻った。
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