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男が自宅で花を育てるようになったのはそれから一週間後のことだった。
彼岸花。
ネットで調べてみてそれを選んだ理由に大それたものなどない。単純に、育てるには最適な時期だったのだ。それから、黄泉を連想させる花という意識が強く根付いている一方で湛えられている深紅の美しさに魅了されたのだった。
なぜ魅了されたのかと問われれば、男にそれ以上の答えは言いようもない。ただ、女性の口にしていた「花のように生きることは難しい」という言葉が案外嘘っぱちだということに気が付いた。
男はまだ芽も出ていないそれに水をやりながら、せめて基礎ぐらいはご教授いただくべきだったかと思うようになっていた。
花が咲くのは八月頃だろうか。
いつもは独りの家に、新たな相棒ができた。男は気長に待つつもりで、その日もたまの休日を利用し、趣味の映画に入り浸った。
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