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確かにこの街には緑があふれている。男が住まう借り家の正面にある公園では、大きなけやきが堂々そびえ、その下生えやバラ、チューリップなどの花々、人工のものでない芝によって美しく彩られていた。
だが、それにしても、だ。男は思わず頬を引きつらせた。
その粘土を乱暴にこね回したような歪な容姿でガーデニングをされたとしても、どうにも違和感ばかりが芽生えて仕方がなかった。趣味など人の勝手ではあるが、こう目に見える場所でその女性にガーデニングをされることがどうしても理解し難かった。
男は小さく首を振った。忘れることにしたのだ。隣人との付き合いは大事であることをこの四年間で学んできたが、今度ばかりは話が違ってくる。触らぬ神に祟りなしである。
白色のソファに腰を降ろし、身体に悪そうな炭酸飲料をがぶ飲みしながらポップコーンをむさぼる――そんな開放感あふれる世界に舞い戻ろうとカーテンから手を離そうとしたとき、視界の隅に、『園芸教室』という看板を抱えて家の中から出てくる女性の姿が見えた。
そこに悪意があるわけでもないのに、何故かぞくりとした寒気が背筋を走り、男はしばらくその場を動けなかった。
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