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女性が園芸教室を開いたのはそれから僅か二日後のことだった。
しかし、客足はまるで目立たず、それというのも、園芸教室というもの自体が地域に根付いていなかったことと、女性の容姿を喰いものとする近隣住まいの主婦がいたこととが重なり合い、風評がまたたく間に悪評と化したためであった。
男がそのことを知ったのは、会社帰りにたまたま出くわした、左隣の家で暮らす旦那と会話を交えたときであり、「大変そうですね」とは口ばかりで、実際には、それもそうだろう、と心の内でうんうん頷いていた。
翌日は土曜日で、運よく会社も休みだった。そのため、女性の生活ぶりを初めてその目に拝むことができた。
こんなにも女性の動向を気にかけてしまっているのは、その容姿ゆえの衝動なのかもしれない。美人のことを男性陣が目で追うように、男は醜悪なその女性が、日頃どのようにして生活を営んでいるのかが何となくだが気にかかった。
もっとも、朝、ほんの三分ほど観察して、ハッと我に返った。いくら何でも失礼だろうと、そしてこれではストーカーになってしまうと自覚して、冷静さを取り戻したのだ。
だが、昼頃になると、再び興味のそそられる声が窓越しに聞こえてきた。
つまりそれは人と人との話し声だったわけだが、それまでずっと女性が花とひとりで無言の会話をしていたことを今朝の様子から察していた男は、一体何事か、と最近気になる映画をパソコンでチャックする手も止めて、カフェカーテンへと駆け寄った。
すると、驚いたことに玄関の前で、かのゴブリンと笑顔で対話する、背の高い女性の姿があった。
色白で、陽に当たるウェーブ調の髪が自然に茶色をまとっていた。甘い香りを漂わせていそうな風貌だ。
八方美人とはまさに彼女のような者を指すのであり、そのような人物が目に余る外見の女性に嬉々として振舞う光景が信じられなかった。
そのまま二人は家の中へと入ったっきり、出てくる気配もなく時は流れた。
ただ時々、庭側の窓からはっきり見える曇りガラスの裏で、人の動く影が伺えた。四枚の曇りガラスは格子付きのもので、平行にはめられていた。同じ形式のものが自宅の手洗い場にもあり、男はそれがレバーを回すと四枚のガラスが連結して動くタイプのものだということを察した。
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