虫男

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 ガラスとガラスの間に丁度よい隙間があったため、そこからどうにか中を覗こうとして、男はカーテンを壁にしながらくねくね体位を変えた。網戸があって、その奥にかろうじて室内の様子が切り取られているのだ。  ところが、人影が窓の前で立ち止まったとき、男はうかつにも反射的に身を固くすることを選択してしまった。人影は網戸越しでもはっきりわかるように身を屈ませ、そして男の方へと確実に視線を向けた。  咄嗟にカーテンを閉めた。だが、男は相手が見知らぬ美しい女性であることをその目で認識できた。できてしまった。ということは、男の立場はすっかり危ういという意味でもあった。  もう一度、今度は窓の右側からカーテンをめくって覗いてみた。  すると、小窓は宝物を守るみたいにして、すっかり口を閉ざしていた。
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