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「ひさしぶり」
「えっ、えーちゃん?」
階段を駆け上がって自分の部屋に入ると、小学校の時に遠くに引っ越していった幼なじみがいた。思わず持っていたカバンを放り投げて彼を見上げる。
「ひさしぶりだね由美ちゃん」
昔と何も変わらない穏やかな笑顔であたしを見つめるえーちゃん――栄治くんに剣道の突きのように次々と言葉を投げかける。
「どーしたの急にっ! 手紙だって返ってこないし、えーちゃんのこと、えー
ちゃん知ってる友達に聞いても誰も知らないって言うし!」
もっと言ってやりたいことは山ほどある。ふとした瞬間に栄治くんのことを思い出してはひとり泣くこともしょっちゅうだ。
でも今は再会できたことが自分の中でいっぱいいっぱいすぎて、『喋ってないとしんじゃう病』と友達にバカにされるあたしが何も言えない。頭の中にある言葉がぜんぶ口に来る前に消えちゃった感じ。
あーとかうーとか言いながら彼を見上げていると彼はおかしそうに大声を上げた。
「ハハハッ、まあ色々話したいことはあるんだけどね」
笑いすぎて涙目になった栄治くんは「とりあえず」と呟くと、空気みたいに音もなくあたしに顔を近づけて、一言。
「ボク、ユーレイになっちゃったんだ」
うん、知ってる、なんて言葉が冷静に出てくるなんて相手が栄治くんだったからだ。(至近距離で6年前にお別れしたときと変わらない姿の彼の顔を覗き込んで「冷静っていうか、逆に思考止まっちゃってる?」って思ったのはあたしの中だけのヒミツ。)
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