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「あっ、それでね由美ちゃん」
「う、うん、なーに?」
ほんとに記憶の中の彼と何も変わらない顔を、あほの子みたく口を開けながら見つめていると突然話しかけられた。
「ひっこし、手伝ってほしいんだけど」
「……ん?」
今なんて言ったのこの子。引っ越し?引っ越しってあの住所が変わる引っ越し?ちょっと混乱するあたしの頭の中なんて置いてけぼりで栄治くんは続ける。
「ボクおとなりにひっこしてきたんだ」
これからよろしくね、って笑って手を差し伸べる彼。彼の手と彼の笑顔を交互に見て数秒。今度こそ「えぇー!!」と叫んだあたし。
「ゆ、ユーレイって引っ越し手続き? 手続きできるの? ていうか業者さんユーレイ見えるの? 霊感持ちなの?」
「ボク先に家のほう行ってるね」
「あ、うん」
あたしの質問なんて聞こえてないみたいにふわーと空中で一回転すると、魔法みたいに一瞬であたしの目の前からいなくなった栄治くん。このやり場のない疑問をどうしたものかと思いながらも部屋を出た。
「引っ越し、手伝わないとね」
聞きたいことは山ほどあるけど、今はトラックに山ほど積んである家具運びを手伝いに行かなきゃね、
さっき駆け上がってきたばかりの階段を駆け下りた。
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