第1章

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「これからどうぞ、よろしくお願いしますね」 「はあ……どうも……」  やわらかな風が若葉をゆらし、小鳥たちが囀る、休日の朝。若い夫婦が、「隣に越してきたので」と挨拶にきた。が、俺は返事もそこそこに引っこんだ。このアパートで暮らしはじめてから二年ほどになるが、近所づきあいなど面倒くさいだけだ。  そして、いつもの休日と変わらず、メシ食って、掃除してから出かけて、帰ってきて……。  ドアの前で鍵を出していると、隣のドアが開き、男が会釈して通りすぎた。  たまに顔を会わせる住人だ。  ……ということは……あれ? 彼が引っ越していったわけではないのか?  じゃあ今朝ここに来たのはいったい何者なんだ?  首をかしげながらも中に入り、洗濯物をとりこむためベランダへと出た。隣家の木の枝が、こっちまでのさばってきていて、相変わらず鬱陶しい。ふと誰かに見られているような気がして、枝の間に目を凝らす。  二羽の小鳥がこちらを窺うように、巣箱から顔を覗かせていた。
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